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2020年7月
〜比較的少ない下咽頭の腫瘍についてあれこれ〜

2020年のオリンピック・イヤーを迎える年末から年頭にかけて、咽頭・喉頭に関係した悪性も含めた腫瘍と思われる男性患者さんが平年から比べると「ヘッー!」っていう感じの人数がいらっしゃいました。
オリンピックの延期により今年はコロナウイルス・イヤーとなってしまいましたが全世界のコロナ・ウイルスの流行が終息することを只々祈るばかりです。
ところでその中で、下咽頭の悪性腫瘍と思われる方は驚くべきことに3人ほどいらっしゃいました。数か月の間にこの小さな診療所にどう見ても下咽頭の悪性腫瘍と思われる方が立て続けに来院されることは信じられないことでした。
耳鼻科における咽頭・喉頭部の悪性腫瘍として下咽頭腫瘍に占める割合はほんのわずかです。50代から70代に多くみられ、男性に多くみられます。食道がんの合併率が10~30%と有意に多くみられます。飲酒との関係も示唆されています。最近増加傾向にあります。5年生存率は30~40%(ごく最近のデータは定かではありません)で頭頚部の中ではもっとも予後不良ながんの一つです。
症状としてはやはり長引くのどの痛みでした。自覚的なのどの痛みの期間は数週間から数か月続いていました。
国立がん研究センターのホームページからの引用となりますが、以下を参照して下咽頭がんのイメージをしてください。

1.下咽頭について
咽頭は、鼻の奥から食道までの飲食物と空気が通る部位であり、筋肉と粘膜でできた、約13cmの長さの管(くだ)です。咽頭は上からそれぞれ、上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分かれています(図1)。 なお、鼻、口、あご、のど、耳などからなる部位を頭頸部(とうけいぶ)といいます。

図1 頭頸部の構造

下咽頭は、咽頭の管の最も下の部分で、食道と中咽頭、気管とつながっている喉頭(こうとう)に隣接しています。
下咽頭は、空気や飲食物の通り道になります。飲食物が通るときには、喉頭が上がることによって喉頭蓋(こうとうがい)が喉頭への通り道をふさぎます。それによって飲食物が気管に流れないようにしつつ、食道へ送ることができます。

2.下咽頭がんとは

下咽頭にできたがんを下咽頭がんといい、下咽頭がんは頭頸部がんの1つです。
咽頭の周りには多くのリンパ節があるため、頸部(首)のリンパ節に転移しやすいという特徴があります。がんの発見時に頸部リンパ節への転移が見つかることも珍しくありません。また、下咽頭は喉頭に近いため、下咽頭がんが発見されたときには、喉頭までがんが広がっていることもあります。

3.症状

下咽頭がんは、初期のうちは自覚症状がみられないことがあります。初期症状としては、以下のようなものがあげられます。
飲み込むときの違和感、おさまらない咽頭痛、吐血(とけつ:消化管からの出血)、口を大きく開けにくい、舌を動かしにくい、耳の痛み、口の奥・のど・首にできるしこり、声の変化。
これらのような気になる症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診し、早期発見につなげましょう。

4.患者数(がん統計)

下咽頭がんは、日本全国で1年間に約1,900人が診断されます。下咽頭がんと診断される人は男性に多く、女性の10倍近くにのぼります。

5.発生要因

下咽頭がんの発生には、喫煙・飲酒と強い関連があります。

6.予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
下咽頭がんを予防するためには禁煙し、飲酒も適量を心がけましょう。
7.下咽頭がんの検査

触診、喉頭鏡(こうとうきょう)検査や内視鏡検査で咽頭を確認し、がんが疑われる場合は、組織を採取して詳しく調べます(生検)。また、がんの大きさ、リンパ節や他臓器への転移などを確認するために、CT検査やMRI検査、超音波(エコー)検査、PET検査などを行います。
1)触診
首の回りを丁寧に触って、リンパ節への転移がないかなどを調べます。緊張すると首が固くなり、リンパ節の腫(は)れが見つけにくくなるため、リラックスして肩の力を抜くことが大切です。
2)喉頭鏡検査・間接喉頭鏡検査
小さな鏡がついている器具を口から入れて、鼻やのどの奥を確認します。
3)内視鏡検査
咽頭や喉頭に局所麻酔を行い、咽頭反射と表面の痛みを除いたあと、内視鏡を鼻や口から入れて、咽頭を確認します。その際、声帯の動きも確認します。また、下咽頭がんでは、食道がんや胃がんを合併していることがあるため、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)によって重複がんがないかを調べます。
当院での検査は以上です。


下咽頭がんのTNM分類は


下咽頭がんの病期分類

日本頭頸部癌学会編「頭頸部癌取扱い規約 第6版(2018年)」(金原出版)より作成
8.治療の選択

治療法は、標準治療に基づいて、患者さんの体の状態や年齢、希望なども含めて検討し、担当医とともに決めていきます。
食事をとる、発声するといった機能を温存することも重要ですので、腫瘍の部位や広がりから喉頭の温存を目指す治療が可能かどうかを検討します。
下咽頭がんの治療では、I期やII期といった早期では、喉頭の温存を目指し、放射線による根治的な治療や、喉頭を温存する手術(喉頭温存手術)を行います。がんが進行している場合は手術による治療が主となり、部位によっては喉頭を摘出せざるをえないことがあります。そこでQOLを保つために、喉頭温存手術や薬物療法を併用して放射線治療を行う化学放射線療法を行う場合もあります。

では、当院にお見えになった患者さんの写真を供覧します。良性の喉頭疾患から悪性の下咽頭の疾患の方たちです。(2019年年末から2020年第1四半期)

症例1 前連合の小さな声帯結節

症例2 同様の前連合の結節

症例3 左声帯後方のポーリプあるいは肉芽

症例4 両側声帯の白斑変化

症例5 多発性のポリープ或いはパピローマか

症例6 下咽頭腫瘍

症例7 下咽頭腫瘍

症例8 下咽頭の腫瘍