トップページへ 院長の気ままな話題
 
2017年1月
〜滲出性中耳炎について、私が思うこと〜

小さいお子さんの中耳炎に関する問題点としては、上気道炎に伴い急性の中耳炎を幾度となく繰り返す子供がおり、特にそれが滲出性中耳炎と移行し治療が長引く場合です。

滲出性中耳炎とは、耳管が正常に機能せずに中耳に液体がたまっている状態です。急性中耳炎では鼓膜の発赤や発熱・腫脹などの急性炎症状態がありますが、急性炎症症状で来院された患者さんでもbaseに滲出性中耳炎がある場合もあります。軽度の滲出性中耳炎ではこういった急性の症状がない場合はなかなか気づかれない場合があります。

滲出性中耳炎の発生機序として考えられているのは、中耳の換気を行う耳管の機能の悪化により、中耳内が陰圧になりその状態になると中耳内に浸出液が溜まってしまい、どんどん悪い状態に進行していきます。本来中耳は空気で満たされているはずなのに、常に液体がたまっていると中耳粘膜もふやけた状態になり、耳管の中にある線毛機能も弱り、排出が悪くなるというわけです。

今回繰り返す急性の中耳炎から、滲出性中耳炎に移行してしまった双子のお子さんの治療を1年以上にわたり観察させていただき、この場を借りてわたくしなりの滲出性中耳炎への考えを述べたいと考えております。

双子ちゃんの耳内所見と耳管入口部に大きく影響を与えるアデノイドの状態を、治療前と治療終了時の2回に渡って小さなお子さんにご協力いただいて内視鏡所見を撮らせていただいております。治療がうまくいかない場合は中耳内へのチューブ留置術とアデノイド切除をしなければとも考えていたのですが、小学校に上がればアデノイドも小さくなり良い方向に向かっていくことも考えて、お母様とのお話で少し経過を見せていただくという事になりました。

結果としてはほとんど問題ない状態になりました。

双子ちゃんNo.1
(1) 治療前の鼓膜と後鼻腔に大きく占めるアデノイド所見および聴力図とチィンパノグラム


右の鼓膜の色は悪く聴力も右は低下しています。
(2) 治療後の鼓膜と縮小したアデノイドの所見 および聴力図・チィンパノグラム

撮影条件が違いますが、鼓膜の色は左右の差がなくなって
きています。 後鼻孔も広くなっています。 アデノイドの
耳管への圧迫が少なくなっていると考えられます。



双子ちゃんNo.2
(1)治療前の鼓膜と後鼻腔に大きく占めるアデノイド所見 および聴力図・チィンパノグラム


右鼓膜は内陥が強くあり透見できる中耳の色は暗い感じになっています。
左は右ほどではないにしても内陥した状態です。耳小骨の短突起が目立ちます。
聴力は右の方が低下しており、チンパノグラムでは右は反応がフラットです。
(2)治療後の鼓膜と耳管への圧迫が少なくなったアデノイドの所見および聴力図・チィンパノグラム

鼓膜の色調は改善されています。またアデノイドも縮小して、
後鼻腔も広くなっています。聴力も左右差もなく改善しています。

滲出性中耳炎には絶対的な治療法はなくそれぞれの先生が「良し」とする治療法をやっています。数か月ないし半年ぐらい、滲出性中耳炎の状態に改善が見られなければ、中耳内へのチューブ留置術、また咽頭扁桃(アデノイド)や口蓋扁桃の摘出術も加えた手術的治療も考えることが一般的かと思います。

確かに本当に治り辛い場合は考えなければなりませんが、鼻や咽喉の感染が成長とともに少なくなり、アデノイドも縮小傾向に向かっていくと、双子ちゃんのように、経過を見ているとよくなる例が多々あります。もちろん何もしないわけではありません。時々の耳内所見の確認や聴力の変化、鼻内などの状態も観察し、その都度耳に悪影響与えるような状態なった場合は投薬を行います。

今の私のスタイルは先ず耳を取り巻く環境の改善が唯一と考えアレルギーや副鼻腔炎、扁桃炎があれば、その治療を行います。また、子供自身や保護者にも自覚していただくように1〜2週間に1度は来院していただき、鼻処置やネブライザー、耳管通気療法などもしていきます。ただ、この1〜2週間に一度といっても、何人かの子育て中のお母さんや働くお母さんたちにとってはこの通院回数でもなかなか難しいことがあります。最初は必ず来ますと言っても治療が半年、一年となるとだんだんと足が遠のいていく方もあります。例え1か月に一回あるいはたまになってしまっても決して責めないでその時の状態を説明することです。風邪などひかないで、元気よく過ごしていれば、人間の体は自己の免疫力が働き良い方向に向かっていくものです。過去には他院でチューブ留置を受けてもらっても、そのチューブが脱落してしまい結局同じになったり、チューブの抜けた後に穿孔が残り、果ては鼓膜再生術を受けたり、最終的には慢性の中耳炎になったりと、悪い結果になってしまった例もあります。

先にも言ったように唯一の治療法はないと言っても良いかもしれません。ただ医師としては何もしないで様子を見ましょうとは言えません。いくら自然治癒率が高い疾患であっても、悪い方向に向かう例もありますから、経過を見せていただきたいと考えます。