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2015
〜えっ?結核だったの!〜

それは数年前の秋の話です。

まだ時季的に外来も混んでないときでした。かなりご高齢の男性の方が、近所の人に連れられてお見えになりました。

一人住まいで、ご近所の方とはどういう関係かはわからないのですが、身内の方にすこし面倒を見てくれるように頼まれていたのかもしれません。
足腰は弱くなってはいましたが、頭は比較的しっかりされていました。
お話を伺うと、1か月前ぐらいから咽喉の痛みがはじまり、近医で風邪ということで見てもらってはいたのですが、一向に咽喉の痛みが取れないことを心配して、近所の人が連れてきたというわけです。

先ずは間接喉頭鏡でざっと喉の奥の方を覗くわけですが、痰も多くなかなか見えません。ぜこぜことしているし、ご高齢なので、あまりやりたくはないのですが、当院にある内視鏡の細い方で、患者さんに負担がかからないように配慮してやることにしました。もちろん鼻からですから、咽喉の反射はあまりでません。頸部には小さなリンパ節を2〜3個触れました。

鼻から内視鏡を入れていくと、鼻腔を過ぎてだんだんと下咽頭にかかってくると、痰が多く見えてきました。

喉頭蓋が見えてきています。
咽頭後壁に白っぽい痰の付着と
痰の貯留が認められます。
喉頭蓋に近づいてきました。
喉頭蓋の背部はやや赤みがあります。
特に左寄りです。
そして気持ち斜位になっているようです。
喉頭蓋の奥の方は見え辛いです。

内視鏡が声門近くに入ってきました。向かって左が患者さんで右が正常のかたの呼吸時の声門の状態です。

食道入口部には痰が非常に多くあります。ご高齢の方では嚥下能力が低下してくるとこんな場合もあります。

ただ、喉頭面に目をやると左仮声帯後方に白っぽい肉芽だか腫瘍なのかはっきりしない塊があります。

声を出してもらうと声帯は一応動きます。ただ披裂部の粘膜、仮声帯粘膜はなんだか浮腫状態(ぶよぶよ)です。

先ずは悪性腫瘍を疑い、地方に住まわれているご家族に連絡をとってもらい、土曜日の午後に状況説明をしました。組織検査の必要をお話ししたところ、お住まいの近くの大学病院へのご紹介を希望されました。

お返事を頂いた限りでは、2回ほど生検を行ったようですが確定はされませんでした。結局、感染症の疑いということではっきりせず、経過観察という事になったようです。

その後、翌年の春にのどの痛みと痰が多いいとの訴えで、今度はヘルパーさんを同伴して来院されました。当院も抗生剤と去痰剤を出して様子を見ていただくようにお話ししました。

その後は来院されていません。

ただ、その後日談が大変でした。

保健所からの連絡でこの方は結核で、喉頭の病変も結核による結節形成だったのでした。 それがはっきりしたいきさつはプライバシーにかかわることなのでわかりません。
どうも若いときに結核に罹患しており、治癒はしていたのですが、わずかに残っていた悪い奴が体力、特に免疫力の低下により、復活したのでしょう。
うちには秋と春に2回みえています。その接触者すべての洗い直しです。うちの職員で、呼吸器系の症状を訴えたものはおらず、一番の濃厚接触者はこの私です。間接喉頭鏡で直接喉頭を確認し、内視鏡でも確認し、お話も近くでやっていたのですから…。
私自身はその4か月で何ら呼吸器症状はありませんでした。 代表して私だけが保健所内での胸部レントゲンの撮影を指示されましたが、診察にかかる時間帯でしたので、難色を示したところ、血液中の核酸検出検査をするということで合意しました。もちろんマイナスです。

成書によると原発性の喉頭結核はまれで、ほとんどは肺結核に続発するといわれています。化学療法の出現により著しく減少しています。感染経路としては、喀痰中の菌が喉頭粘膜間隙を通り侵入するようです。所見的にはいろいろな粘膜病変を呈し、浸潤、潰瘍、軟骨膜炎、結核性肉芽などあるようです。本当に初期では一側性声帯炎を呈するようですが、振り返ってみると、この方の場合は浸潤、肉芽、軟骨膜炎などの症状がもはやあり、臨床所見上悪性腫瘍との鑑別が必要でした。あとは肺病変の検索を必ずしなければなりませんでした。

今回の教訓は誰もが悪性腫瘍のほうを強く考え、大学病院でも結核を予想しなかったことで、確定診断が遅れたのではないかと思います。

私も喉頭結核の患者さんを初診で見るのは初めてでしたので、大変勉強になりました。