トップページへ 院長の気ままな話題
 
2014
〜歯はずーっと大事です〜

私たち耳鼻科医は毎日多くの患者さんの口の中を見ています。町の歯医者さんが1日で見る口の数よりはずっと多いと思います。 鼻の症状でお見えになった方でも必ずのどは見ますから、当然口腔所見も確認するわけです。
今回の患者さんは3日前よりのどの痛みが強くあるとの訴えで来院されました。熱はありませんでした。
先ずのどの所見をとるにあたり、義歯を外していただくと、写真(1)のように歯肉の腫れ、口腔底の腫れがあります。また残っている歯はほとんど齲歯状態でした。扁桃腺の腫れはありませんでした。口腔底炎でした。
お顔もよぉ〜く拝見すると写真(2)のように、前頸部、とくに左寄りがもっちりと腫れています。そうなると、この炎症が下咽頭、喉頭にどの程度波及しているかが問題になります。軟部組織がこれだけ腫れているとちょっと心配です。
でも患者さんはそんな大変な状況になっているとは、全然病識なく、私だけ心配しながら、 内視鏡を施行。喉頭の浮腫、特に声門の浮腫があったらどうしようかと、心ひそかに、びくびくしながらです。

(1)歯肉部の腫れと齲歯 (2)前頸部の腫れ
案の定、左寄り下咽頭から、喉頭蓋にかけてedematousな状態、浮腫状態あります。ということは、口腔底から、筋肉とかの間を通って炎症が波及している、もしかして膿瘍形成、あるいは縦隔にまで到達している可能性もありです。
患者さんにはとにかくかなり悪い状態で、口腔外科のあるところで入院して、強力な抗生剤による治療が必要な旨をお話ししました。
問題点は、患者さんが一人住まいであり、他に状況をこと細かく説明できるかたがすぐにいませんでした。とりあえず、市内の口腔外科医が常勤している病院にご紹介いたしました。
年齢は伏せさせていただきますが、この患者さんは決して非常にご高齢というほどではありませんが、こういう独居老人というかたが増えているようです。何か手術的な治療や入院治療の話を勧めても、なかなか難しいことがあります。

舌下部の浮腫と歯肉の腫れがあり、
舌下部のひだは消えうせ、歯茎部は齲歯に
なっているようです。
左咽頭側壁が突出しているのがわかります。
下咽頭と喉頭蓋の上部が腫れているのが
わかります。
上の写真より喉頭蓋により接近しています。
喉頭面には内視鏡挿入しませんでした。
淡とか詰まっては大変ですので。

ではここで口腔底炎の説明をしましょう。
耳鼻科のバイブルからの引用です。
口腔底炎は口腔底に始まる急性化膿性炎症であり、口腔底膿瘍(急性限局性口腔疾患)と口腔底蜂巣炎とわけられます。大部分は歯性感染です。そのほか、顎骨骨折の感染、顎骨周囲の粘膜ないし軟部組織の炎症、扁桃、唾液腺、リンパ節の炎症などの波及によるものもあります。
原因疾患にひき続き舌下部あるいは顎下部の腫脹が現れ、痛みおよび高熱をきたし、しばしば悪寒を伴います。炎症が主として舌下間隙が中心となっているとこは、腫脹は舌下部に著しく、構音・嚥下障害・流涎が生じます。口腔底粘膜は発赤し、圧痛があります。 炎症が主として顎下間隙にあるときは腫脹は顎下部に著しく、外観上いわゆる二重顎の状態になります。
口腔底蜂巣織炎は、一般症状は口腔底膿瘍とかわらないのですが、すべての点で重篤になります。さらに周囲に炎症は蔓延し、あらゆる間隙を伝わってび漫性に進行します。
炎症が周囲に進み浮腫を生じこれが喉頭に及べば声門浮腫により呼吸困難、窒息をきたすこともあります。また頭蓋腔に波及して髄膜炎をひきおこす場合もあるようです。
治療としては膿瘍を切開し、病巣を解放すると同時に強力に化学療法をおこないます。気道確保も考えなければなりません。
最終的には患者さんは大学病院の口腔外科に転院し、そこで膿瘍切開と縦隔洞炎の治療を受け、退院までに1か月ぐらいかかったようです。