トップページへ 院長の気ままな話題
 
2012〜2013
目が動いているんです?! 〜先天性眼振について〜

じっと相手の目を見ると、本人の意思とは無関係に眼が動いている方がいらっしゃいます。細かく左右に動いたり、あるいは右向きに速い動きがあってまた真ん中にもどってきたり、同じように左向きに速く動いて、真ん中にもどってきたり、その人によって異なるパターンがある先天性眼振という病態があります。

これは果たして病気なのかという問題ですが、ご本人はめまいを感じているということはないのです。他人からみれば、目が無意識に動いていて、物が普通に見えているということは不思議なことかもしれません。生まれつきの状態なので、この方たちの頭の中ではおそらく私たちと同じような視覚情報として処理されているので、なんら違和感を感じないのだと考えます。いまのところこの先天性眼振の障害部位や、成立機転ははっきりしていません。

耳鼻咽喉科のバイブルからのおおまかな引用ですが、視運動系の機能について述べてみたいと考えます。

眼底から入った視覚インパルスは、外側膝状体をへて、後頭葉の視覚野に達します。視覚経路です。皮質の視覚性連合野はBroadmannの18、19野にあって、ここから運動性インパルスが上丘を経て、あるいは直接第V、W、Y脳神経核(眼球運動神経の緒核)に達して眼筋を動かしています (眼球運動経路)。なお大脳における眼球運動に関与する部位は、前頭葉、側頭葉にも存在して、随意的注視や眼球の側方共同運動などを行うものと考えられている。

私たちは注視したいと欲する対象物に目をむけ、それを注視していること(注視性眼球運動)ができます。また動く物体を追跡して対象物から眼を離さず注視していること(追跡性眼球運動)ができます。

頭が回転するとき眼球は逆向きに回転します(前庭性眼球運動)。これは回転による網膜像のブレを補正する為です。

電車や車の中から外の景色を見ているときのように、連続的に目の前に現れては視野から去っていく対象を見ているとき眼振がおこっています。この場合、眼球は外界の移動につれて車の進行方向と逆向きにゆっくり動いていますが(緩徐相)、眼球が一定の偏位を生じると自動的に急速に反対的にすばやく動いて(急速相)、もとにもどり、再びもとの景色を追ってゆっくりと動きます。このような運動を視運動性眼振とよんでいます。

以上の注視性眼球運動、追跡性眼球運動および視運動性眼振の発現は、前庭迷路や小脳の影響も脳幹網様体を介して及んでいます。したがってこの回路内のどこかに障害が生じると、これらの眼球運動が正常に行われずに、異常がみられるようになります。

先天性眼振もこの経路のどっかに不具合が生じていると考えられます。

今回、職場の健診で、産業医に「目が動いてるから耳鼻科に行くように」っていわれた方にご協力いただき、先天性眼振の所見をビデオにとりましたので、供覧ください。

このページのコンテンツには、Adobe Flash Player の最新バージョンが必要です。

Adobe Flash Player を取得


また、当院で行っているめまい検査の1つである眼振検査の結果を供覧します。

下の図は当院でおこなっている眼球運動の機能検査です。眼球運動を司っている視運動系の神経回路は前述のように前庭系と密に関連しており、前庭機能の検査に際しては、眼球運動に現れる反応を頼りにして調べることが多いのです。いわゆるめまいの検査ということです。

今回、先天性眼振の方3名と正常の方1名の眼振検査の図を提示します。先天性眼振の方には検査にご協力をいただき、正常の方はたまたまめまいを訴えて来院されたのですが、検査結果はいたって正常で、模範的なパターンでしたので、ここに表示させていただきました。


『正常の人』


上記の図は指標追跡検査(ETT eye tracking test)と視運動性眼振パターン(OKP optkinetic pattern)の正常の方の場合です。主に両図とも上2段が必要な情報をあたえてくれます。水平成分に着目しています。

ETTに関しては一段目のsignカーブは左右に動く指標をリズミカルにきれいに追えており、その下の段はそれを追う眼球速度がほぼ均一に保たれていることを示します。この中では異常な眼球運動はみとめられません。

OKPに関しては線路のような動きのある縦線が次々と現れ、だんだんと加速され、ある一定の速度に達すると次は減速になり停止します。二段目が大事であり、このパターンがいろいろの病気で異なってくるわけです。でも実際の検査では患者さんの理解力や年齢、まばたき、反射運動の良し悪しにより、なかなか難しいです。私がやっても、この方のようなきれいなパターンは得られませんでした。また解釈に困難な場合も多いです。この方の検査結果は本当にbeautifulでした。これほどきれいに出る方はめったにいません。

次に先天性眼振の方に関しては先ず第一表は患者さんにまっすぐ前を見ていただき、眼を固定した状態の眼の動き記録したものです。特に2段目は基線を中心に上下に小さなスパイクが小刻みにあるのがわかります。上向のスパイクが右向きの眼振をあらわし、下向きのスパイクが左向きの眼振を現しています。3人3様です。このように先天性眼振は一定の法則があるのではなく、向きが一定の方もいれば、途中で向きが変わったりして、不思議です。そして、物を見てもおそらくぶれないで、頭の中でひとつの像として感じているのだと思います。

第2表はETTです。

第3表はOKPです。

摩訶不思議なパターンとなっています。


『先天性眼振(1)』

『先天性眼振(2)』

『先天性眼振(3)』