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2012
なかなか大変です。

花粉症の患者さんでごった返すあわただしい時期に、高齢の男性がご家族に連れられておみえになりました。たびたび血痰があり、内科的に検査を受けても胸部に異常はなく、食事の際の痛みもあるため、いよいよ耳鼻咽喉科を受診なさいました。ご家族の話では、昔から病院にかかるのは好きでないとのことでした。

先ず、ざっと中咽頭や鼻腔を見て、特に問題なく、次に間接喉頭鏡にて下咽頭から喉頭をのぞきました。さすがの私も驚きました。ゴテゴテの下咽頭癌です。しかも喉頭や食道入口部にも広がっています。

ご家族が同伴されていましたので、そのまま内視鏡を施行し細部を観察しました。喉頭披裂部への浸潤のため左声帯はうごかなくなっていました。周辺の下咽頭粘膜は、浮腫状態もありました。痰が詰まったりしないかと内心ひあひあでしたが、無事終了。

こんなになるまでには、咽喉の痛みや、むせや、切れない痰や血痰があったでしょう・・・。

首に眼をやれば大きなリンパ節の腫脹が・・・。

もうこれは、手術なんて無理。本人を前にこの状態を説明する事はできないので、ご家族に説明。とり合えず、大学病院に紹介して、今後の治療指針を立ててもらいましょうと話しました。

後日ご家族からの連絡で、stage IVの末期癌でした。

下咽頭癌は男女比は6:1と圧倒的に男性に多く、食道癌との合併率が10〜30%と有意に多いようです。また飲酒との関係が示唆されています。組織学的には大半が扁平上皮癌で、70%前後にリンパ節転移がみられます。頭頚部癌の中の約10%を占めるといわれ、最近増加傾向にあるといわれています。5年生存率は30〜40%で頭頚部の中でもっとも予後不良な癌の1つです。その理由として、(1)自覚症状の発現が遅れ、内視鏡や間接喉頭鏡で見落としやすい部位である。(2)早期より頚部リンパ節転移を生じ進展例が多い。(3)遠隔転移を生じやすい。などが予後不良の原因としてあげられます。

下の写真は向かって左がこの患者さんで、右は正常な方の咽喉です。最初の写真は中咽頭あたりから、下咽頭、喉頭とながめたものです。癌の方は何となく血色も悪いようで、全体がごつごつしているようです。痰の貯留もみられます。

2段目は喉頭に近づいて、声門や食道入口部あたりを観察しています。この患者さんでは声門深くまで内視鏡を入れるのは危険です。正常の方の声帯は良く見えているのですが、左側の声帯ははっきり見えませんでした。というか、この癌の患者さんでは声門の狭窄がないのを確認して深入りしませんでした。発声していただくと、右の声帯は動きましたが、左の声帯は動きはありませんでした。披裂部への癌の浸潤のためと考えます。また、食道入口部も閉鎖が悪くなっているようです。

皆さんも咽喉の異物感を感じたら一度は耳鼻咽喉科を受診されてはいかがでしょうか。喉頭や咽頭は見て診断できる部位ですから…。咽喉の内視鏡は胃の内視鏡ほど大変ではありませんよ。

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