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2011〜2012
なかなか治らない耳の病気について

 慢性化した中耳炎や外耳炎では、細菌の同定・薬剤の感受性の検査をして、それに適した点耳薬や内服薬を投与していきますが、どうにもこうにも手ごわい細菌や真菌たちがいます。以前、このコーナーでお話したように、薬剤に抵抗性があったり、複合感染であったりして、たとえば細菌も2〜3種類でたりすると、すべての細菌に効く薬がないために菌数の多いものを最初狙いうちにして、あとは局所の清拭・消毒により乾燥化をはかるという治療法で、患者さんにも気長に対処していただく場合があります。また、細菌と真菌の混合感染の場合はほとほと困ります。おそらく最初は細菌感染がおこり、その後、病態がやや慢性化した状態になり、かゆみや耳の違和感のために、いじっていた結果、局所が真菌類に適した環境にもなってしまったということです。暗くて、温かくて、湿気があって、そこにいるカビたちはどっと増えてしまいます。耳の真菌としてはほぼカンジダとアスペルギルスです。表在性の感染です。

こういった治りづらい場合の対応として、抗生剤が発達する前には頻用されていたであろうブロー氏液というものがあります。このブロー氏液とは19世紀にKarl August von Burowが考案した殺菌作用と収斂作用を有する13%酢酸アルミニウムです。20世紀になって再び点耳薬として注目を浴びるようになりましたが、私が耳鼻咽喉科の医局に入局したころには、もはやその名も挙がらない日陰の薬になっていました。ところが、またまた注目を浴びてきました。それはどんなにがんばっても治らない中耳炎や外耳炎がブロー氏液を外来で3〜4回耳浴すると、乾いてくるのです。

ブロー氏液の内容は上記で述べたように酢酸アルミニウムです。その溶液は市販されているものではなく、次ぎの手順で作っていきます。

用意するものは硫酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酢酸(局方)、精製水、その他、ビーカー、滅菌ガーゼ、乳鉢、乳棒、ロート及びロート台、ろ紙、ガラス棒、褐色瓶、メスシリンダーです。理化実験のようです。

作り方の手順としては、@乳鉢に炭酸カルシウムと精製水をいれよく研和しておきます。A硫酸アルミニウムを滅菌ガーゼに二重に包み、精製水に入れ、一昼夜浮遊させ、融解させ、それをろ過し、そのろ液に精製水を加えます。B@にAを徐々に加えていきます。この際、発泡していきます。Cここに酢酸を加えて、時々撹拌しながら3日間放置します。DCの上澄み液をろ過し精製します。E褐色瓶に保存します。

現在厚生省で認められている薬液ではないため、患者さんに手持ちでは処方しません。中耳炎で鼓膜穿孔がある場合は内耳に毒性もあるという報告を以前に読んだことがありますので、施行する前には聴力検査を施行し聴力の低下に注意をはらっています。また、薬液を外耳道一杯にいれますので、めまいなどの症状などにも注意を払って施行します。

このブロー氏液に関しては群馬大医学部附属病院耳鼻咽喉科の元同僚で、現在は群馬県の邑楽町で今村クリニックを開業されている今村純子先生から、数年前に伝授されました。これは手稲渓仁回病院の耳鼻咽喉科に勤務されている寺山吉彦先生がその効果を再検証し広めているとお聞きしました。私もその後何回か患者さんに使用しています。特に副作用もなかったので、本当にお手上げの患者さんに使用しています。

私どもでは外来のベッドで15分耳浴していただき、その後薬液は全部除去しています。正式なやりかたといったものもないようですので、私流です。

最近経験した、3例について述べたいと思います。学会報告ではないので、性別、年齢等は省かせていただきます。

 

【症例1】

細菌検査でEnteorbacter cloacae3+、Cadida+、Aspergillus spp.+と細菌と真菌のmixの耳漏を伴った外耳道炎の方です。最初に抗生剤で細菌を叩き、局所の清拭と乾燥をはかっていきましたが、なかなか良くならず、ブロー氏液を試みてはとお話したところ、患者さんもnetで調べ、同意してくれました。下の写真が、ブロー氏液で治療を始めるときの患者さんの耳の内視鏡所見です。(1)は右耳です。手前に炎症性肉芽あり、外耳道全体がグチュグチュしており、鼓膜所見もはっきりしません。(2)は正常の左耳です。小さな耳垢もありますが、鼓膜は光錐とツチ骨柄もはっきりとみえます。

(3)はそのときの耳介の所見です。耳介部がかさかさしており、耳を触る癖があるのがわかります。

(4)は3回目の治療を始める時の所見です。劇的に良くなっており、正常耳とほぼ変わらない所見となっております。念のためそのご2回ほど追加しました

【症例2】

この患者さんはStaphylococcus aureus3+、Aspergillus2+でした。前の方と同様な治療経過でブロー氏液をすすめました。下の写真@は患側の右耳です。入り口に肉芽形成あります。(2)の写真は@の奥の所見で鼓膜の所見です。白い菌塊と思われるものもあり、外耳道全体も充血しています。(3)は正常な左耳です。

(4)は4回目の所見です。外耳道は乾いた状態になり、まだ、完全ではありませんが、ほぼ治癒した状態です。

【症例3】

この患者さんはCoagulase negative Staphylococciou+で感受性に合わせた点耳薬を投与して経過をみていた、鼓膜に穿孔を伴った中耳炎の方です。(1)の写真は正常な右耳です。(2)の写真が外耳道に膿がたまった所見です。(3)はその膿を清拭した所見です。右下に穿孔が認められます。

(5)の写真は3回目の所見です。耳漏はほぼ消失し、鼓膜の所見もはっきりしています。鼓膜全体は炎症の繰り返しにより肥厚した状態ですが、いい感じになっています。

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